「ニベ」という魚の“にわか”な話

お魚一覧

海のお魚「ニベ」。「にべもない」という慣用句の語源ともなっています。

ときにはワンランク上の上品な食材として、そして大衆魚としても古くから親しまれてきた魚であり、近年ではメジャー食材から若干離れつつも、その味の良さゆえに根強い人気を誇る魚。

今回はこの「ニベ」という魚について深堀りしていこうと思います。

【にべも“ある”】ニベとはどんな魚?

「にべもない」と言うと、「あっさり」とか「あっけなく」とかいった意味で使われますよね。

「一生懸命お願いしたが、にべもなく断られた」のように。

漢字で「鰾膠」と書く「ニベ」こそ、今回紹介したい魚の名前なのです。

「にべもない」の由来とは

ニベの「浮き袋」と呼ばれる臓器は、その昔「にわか(膠)」という、糊材(こざい)の原料として使われてきました。

糊材というのは簡単に言えばノリ。原始的な接着剤ですね。

にわか(膠)は、ニベに限らず動物の皮や臓器などを煮詰め乾燥などして作るオーガニックな材料で、接着剤だけでなく絵画にも使われることがあるそうです。

ともあれ、「にべもない」の成り立ちは、「接着剤(ネバネバ)がない」が転じて「あっさり」という意味になった、ということですね。

ちなみに、にわか(膠)の材料だ、と説明した「浮き袋」。

漢字で「鰾」とも書く、魚の「浮き袋」という臓器について聞き慣れない方もいるかもしれませんが、ニベだけでなくだいたいの魚は体の中に浮き袋を持っています。

人間で言えば肺にあたる器官ですが、魚が肺呼吸をしているわけではありません。その役割は、気体をためて浮力を保ち、泳いだりアレしたりと、海の中でのいろんな動きにバランスをもたらすこと。

また、その他の浮き袋の機能として、ニベの場合は浮き袋を使って「グーグー」と、文字通り鳴くことがあるようです。

これはメスへの求愛のためとか言われていますが、詳しいことはイマイチよく分かっていません。

とりあえず、以上の2つが浮き袋の主な機能と言えるようです。

と、ここで「浮き袋で鳴く」という行為が、人間である筆者にとってあまりにも突飛すぎたのでもう少し調べてみました。

浮き袋を使って鳴く魚はニベの他にも多くいて、吊り上げた瞬間に魚が思いのほか大きな音を出してビックリした、なんて経験をしたことがある釣り人さんもいるのでは。

ニベのように音を出す魚は「発音魚」とも呼ばれ、浮き袋の他にも歯やヒレ、骨を使って様々な音を出す魚は多くいます。

ポイントは人間のように声帯を持たないことで、魚たちは、あらゆる体の部位を使って威嚇や求愛をしたりコミュニケーションを取ったりしているのかもしれませんね。

ある友人から、何かの魚を釣り上げた時にギャーって鳴いたと聞いたことがあります。

おそらく、威嚇とかではなく水圧の変化から、浮き袋が機能的に音を出したものと想像しています。

魚が音を出すのは、人間が出す声よりも、より本能に近い音なのでは?と感じるエピソードです。

「ニベ」と「シログチ(イシモチ) 」の違い

ニベの仲間で有名な魚に「シログチ(イシモチ)」がいます。

ニベとイシモチは見た目が非常に良く似ていて、どちらも「ニベ科」という分類になるのですが、両者は別の魚です。

ということで、ニベとイシモチの見分け方を紹介しておきます。

シログチ(イシモチ)
これがシログチ(イシモチ)

イシモチの顔は、ニベに比べて丸みをおびていますね。

これがニベの顔

顔先がややシャープなのがニベ。

体の大きさも、ニベのほうが大きい場合が多いです。

顔の形と体の大きさ、この2つのポイントが両者を見分ける一番分かりやすい特徴だと個人的には思っています。

その他、よく言われるのは、側線(体の真ん中を走る線の模様)から背びれにかけて斜めに走る褐色の模様。

イシモチは「シログチ」と呼ばれる通り、体の色は白というかアルミのようにツルンとしているので模様はなく、ニベと明確に見分ける違いといえます。

しかし、ニベもイシモチも綺麗に輝くウロコを持つ魚ですので、光の反射具合や鮮度によって見極めが難しかったりすると筆者は感じています。

ところで話は逸れますが、シログチの「グチ」とは「愚痴」のことで、彼らが浮き袋を使って「グーグー」と鳴く様子が愚痴を言っているようだからとの由来を持ちます。

「“にわか”に〇〇」の語源はニベが関係している?

ところで、「にべもない」の語源が「にわか」というニベ由来の材料であることは既に書きました。

「にわか」という単語で思いつく別の言葉で、「にわかには〜」という慣用句がありますよね。

「にわかには信じられない」のように使うやつです。

これも、古来の接着剤に何か関わりがあるのかな?と思って調べてみました。

「にわかには信じられない」の「にわか」はつまりニベ由来の接着剤である「膠(にわか)」のことなのか?

答えはNO。

「急に」とかの意味合いで使われる「にわか」は、古文、漢文からのルーツを持つ古語らしく、源氏物語でも登場する言葉だそうです。

漢字で書くと「遽」や「俄」となり、ニベから作る接着剤とは関係ないようです。

「接着剤」と、「急に」や「突然に」という言葉。方向性が似てるので関係があるかと思いましたが、違いました。・・・“にわか”には信じられない。“にべもない”結末。

コメント

タイトルとURLをコピーしました