珍魚の筆頭格である太刀魚(タチウオ)は、マダイやアジなどメジャーどころと一線を画す姿に目を奪われがちですが、非常に味の良い食用魚でもあります。
寿司や刺身をはじめとした日本食、あるいはムニエルなどの洋食に至るまで、高級食材として広く認知された存在。(特に焼いて食べるのが筆者的にはオススメ)
太刀魚を食べる時や料理する時に、ちょっとした“うんちく”を語ることができれば話題作りになります。
今回は、そんな珍魚「タチウオ」にかんする小ネタをいくつか集めてみました。
- 太刀魚は何魚か(青魚?白身魚?)
 - トビウオやカマスとの関係は?
 - 太刀魚は深海魚?
 - 銀色の体色のなぜ
 - フィッシングにおける太刀魚とは?
 
それでは順に見ていきましょう!
太刀魚(タチウオ)は青魚?トビウオとの違いは?
太刀魚(タチウオ)はウロコのない魚で、その代わりに体表を銀色の皮膜が覆っています。
銀色に輝く長い棒状のようなもの。つまり「刀」が太刀魚の名前の由来であることは直感的に理解できるでしょう。
しかし、その生態的な属性として、青魚なのか、白身魚なのか、他の仲間にはどんな魚がいるのか、珍魚すぎるあまり全く想像できないことも事実です。
太刀魚は一般的には青魚ではない
太刀魚(タチウオ)は青魚かというと、あまり青魚と呼びません。
奥歯にモノが挟まったような言い方ですが、「青魚」には明確な定義がなく、筆者にも断言はできないのです。はっきり言えることは、筆者が接した料理人達から太刀魚は青魚だと聞いたことがあまり無いということ。逆に、太刀魚を青魚と捉えている人も少数派ながら存在し、どちらが正解かというとよく分からないというのが正直なところ。
青魚や白身魚、赤身魚の違いに関してもまとめてます。
それにしても、“青魚の定義が曖昧”とは一体どういうことでしょうか?
青魚の定義は“ない”
「青魚」の定義には生物学的根拠はなく、もともとは日本独自の食文化の中で生まれた言葉なので、学術の視点では矛盾していることがあります。次のような点。
「青魚」は背中が青い赤身魚のはずだが、マグロは背中が青いけど青魚と呼ばない。
そもそも「青魚」は生物学的な分類とは違うので、「なぜ?」と突き詰めてもしょうがないことかもしれませんね。でも、魚の背中が青い理由には学術的な見方があります。それは、上からの外敵に対する保護色(海の色と同系色)だとする説が有力。海の中で、色は水深によって見え方が変わってきますから、つまり背の青い魚は表層付近を泳ぐ魚が多く持つ特徴だとも言えます。
なお、英語で「blue fish」という言葉が使われますが、日本語の「青魚」の意味とイコールではありません。例えば、太刀魚はblue fishとは呼ばいでしょうし、青魚ではないスズキなどblue fishは呼びます。
太刀魚は「光り物」
太刀魚は「サバ亜目タチウオ科」に属し、背中は青くなく白身魚。しかし、海面近くに滞留する性質があり、しばしば青魚と呼ばれることはあるが、一般的には青魚とは呼ばない。
ちなみに、青魚の多くは、寿司ネタで言うところの「光り物」に属します。ただし、白身魚であっても「光り物」と呼ぶケースがあります。
先ほど青魚の例にあげたサバ、イワシ、サンマは「光り物」です。
光り物とは・・・寿司ネタにおいて皮目が光って美しい魚太刀魚は?というと、太刀魚は光り物だと言えます。しかし、太刀魚の握りがけっこう通なネタなので、同じ白身魚のサヨリなどに比べるとややマイナーな印象ではあります。
太刀魚は白身魚
青魚と呼ばれることはほぼないが、光り物ではある太刀魚。同時に白身魚でもあります。
光り物の代表格「サバ」や「イワシ」と太刀魚が決定的に異なるのが、太刀魚(タチウオ)は白身魚であるということ。サバやイワシは赤身の魚です。
光り物だからといって、白身魚とか赤身魚とかの区別はありません。シンプルに言うとあくまでネタが光っているから「光り物」と呼ばれます。
太刀魚が深海魚かはグレー
太刀魚はその見た目から、「深海魚だろう」と考える人は多そうです。
実は太刀魚の生息域は幅広く、海の表層にいたり、水深400mの深い海にいたり、一概に深海魚であるとは言えないようです。(深海魚の定義は水深200m以深に住む魚)
「深海性の魚」といった呼び方が適当かもしれません。
堤防からでも目撃される魚ですし、河口にさえ姿を表すなど神出鬼没。成魚であれば夜は深場にいて、昼間は海面近くまで移動して餌を探します。
何より、深海魚ならばそもそも青魚であるか否かという話にはならないでしょう。
太刀魚とトビウオ、カマスとの違い
トビウオと言えば海面を滑空する魚。珍魚ぶりは太刀魚と似ているため、つい同じカテゴリに入れがちですが、冷静に外見を観察すると全く別の魚だと分かるでしょう。
トビウオは「ダツ目トビウオ亜科トビウオ科」。成り立ちの遠い魚で、ダツ目といえばサンマやサヨリのほうが太刀魚よりも多少は近い存在と言えそうです。
カマスは「スズキ目サバ亜目カマス科」。科は違いますが太刀魚もサバ亜目なので、トビウオよりは共通した特徴を持っていつつも、太刀魚とは別種の魚です。


よく見るとけっこう違いますよね。トビウオは赤身の青魚で光り物。
カマスは白身魚。青魚ではありませんが、「光り物か?」と聞かれると自信ありません。光り物でカマスとはあまり聞いたことありません。
太刀魚の銀色の理由
太刀魚はウロコがない魚で、全身が「グアニン質」という物質の層で覆われています。
金属っぽい体表の銀色は謎の物質「グアニン質」そのものの色というわけですね。
グアニンはとても剥がれやすく、鮮度が落ちるとこの通り。

まさに「錆びた刀」状態。
このグアニン質は生きている間も剥がれることがありますが、その場合は代謝により再生します。
そしてなんと、この太刀魚のグアニン質はマニキュア等のラメの材料に使われていたこともあるそうです。
魚のウロコを鎧だとするなら、タチウオの場合はステルスのタイツ的なものに身を包んでいるイメージでしょうか。防御力は低いけど外敵に発見されにくい、みたいな。
実際、タチウオの銀白色(生きている時は青みがかっている)は、海の中では保護色になっているのかもしれません。
なお、魚市場などで、グアニンの剥がれたものを目にしますが、必ずしも鮮度が悪いというわけではありません。
底引きで獲られた太刀魚は網に圧迫されたりしてグアニンがボロボロに剥がれてしまうことがあるそう。
逆に、ビカビカの太刀魚は釣りで獲られた一品。高値のことが多いです。
「ドラゴン」「サーベリング」は釣り用語
太刀魚は船でも陸からでも釣れます。ルアーでもウキ釣でも。
歯が鋭い魚用の仕掛けを使った釣りを「サーベリング」と言います。まさに太刀魚釣りのことですね(サワラ等にも使われる言葉)。
そして、大型の太刀魚(最大では2メートルを超える個体も)のことを「ドラゴン」と呼んで特別視するそうです。
太刀魚は泳ぐ力が強くありません。流れにまかせて漂っているため、大型のものであれば重くはあるけど、引きはそこまで強くないと言われます。
その証拠に、太刀魚の鰭(ヒレ)に注目するとほとんどの魚が当たり前に持っている「腹ビレ」と「尾ビレ」を持っていません。



尻ビレもないように見えますが皮に埋もれて存在しています。
背ビレと胸ビレを残して他のヒレが退化してしまった姿を見る限り、太刀魚の泳ぐ力は低いと言わざるを得ません。
太刀魚の由来と英語名
太刀魚の名前の由来などと言わずもがなですが、その姿形が刀の抜き身のようだからですよね。
しかし、意外と知られていない説が、彼らの特徴の一つとして立ち泳ぎするケースが見られることから「立魚」であるとの見方。
英語名では、「Cutlassfish(カットラスフィッシュ)」とか「サーベルフィッシュ」とか剣にまつわる名前が多いようです。カットラスは、海賊が持っていそうな刀剣のことですね。
ちなみに「Swordfish(ソードフィッシュ)」とはメカジキのこと。
ところで、太刀魚の顔が凶暴すぎます。

極悪フェイス。海に潜っている時に出会ったらパニック間違いなしでしょう。
食性は、この顔の見た目通りの肉食で小魚やイカなどを食べますが、甲殻類など堅いものは食べないそうです。
また、少し書きましたが太刀魚は遊泳力が低く、獲物をチェイスして捕らえるよりは、水中を漂い、目の前の餌に食らいつくスタイルのようです。
今回は太刀魚の小ネタを集めてみました。太刀魚を食べる時の話題となれば幸いです。
同じ「長い魚」でお馴染み、ヤガラも非常に興味深い魚ですよ。
 
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