高級魚「イトヨリダイ」は、魚食に苦手意識を持つ人でも食べやすい味わいだと思います。クセがなく適度な水分と上品な旨味。数々の魚を”まずい”と退けてきた人にとって最後の砦かもしれません。値段は高いですがトライする価値はあるでしょう。
イトヨリダイは本州中部より南、水深40〜100mほどの砂泥地に生息し、水深が深めの暖かい場所を好むようです。味はヒメダイやハマダイに似て、淡白すぎず甘味をほのかに感じる上品な白身の魚です。
・・・ということで、高級魚イトヨリダイに注目してみました。
高級魚「イトヨリダイ」とは?
イトヨリダイはカラフルな模様を体に持ち、上品な味とは少しギャップのある見た目をします。どちらかと言えば南国系の魚で、沖縄ではマース煮などの料理に使われる高級魚。
筆者の住む関東ではなかなかお目にかかれない魚で、めずらしく小ぶりの個体を入手したので、特徴的なポイントをいくつか紹介していこうと思います。
繰り返しになりますが、魚に苦手意識があって“魚はまずい”と思うけど、何とかそれを克服したいと考えている人は入門しやすい魚の一つです。
イトヨリダイは魚食嫌いの人にも食べやすい
イトヨリダイが高級魚として扱われるのはそれなりの理由があります。上品な甘さがあり白身魚の淡白さが非常に良く出ていて、他の魚を“まずい”と感じる人でも食べやすいでしょう。魚嫌い克服のためにはぜひトライすべきハードルの低い魚種です。(ただし入手難度のハードルは高い)
逆に“こってり味”の高級魚は?というと、ヤガラとかハッカクなどが挙げられます。イトヨリダイとは違った方向性ながらこちらも美味。しかし旨味が強いので好き嫌いがハッキリします。魚食に苦手意識がある人は同じ高級魚でもイトヨリダイをまず選択すると良いと思います。
繰り返しますがイトヨリダイは白身魚の中でも輪をかけて独特の臭みがなく、それどころか旨味を超えた甘味すら感じるので、魚が嫌いな人でも一気に180度反対の反応を見せるはず。
なお、イトヨリダイは身に含まれる水分が多いので「昆布締め」と相性の良い魚です。旨味凝縮&昆布の旨味プラスで、魚嫌い矯正率120%の破壊力です。
イトヨリダイの食べ方(料理の方向性)
刺身で食べるなら昆布締めもオススメですが、イトヨリダイの食べ方をもう少し考えてみます。

まず冒頭でも紹介した「マース煮」は最適解じゃないでしょうか。南国系の魚で産地で代表的な料理法を選択することは理に叶っているはず。
ちなみに「マース」とは「塩」のことで、その名の通り魚を泡盛などの水分とともに塩味だけで煮るシンプル料理。
昆布締めやマース煮も最適でしょうが、筆者オススメの料理法はシンプルに「フライパンで焼く」こと。
理由は、イトヨリダイの身は水分を適度に含んでいて焼いてもパサつかず、ふっくらとして絶妙なホクホク食感に仕上がるからです。フライパンを使ってのバターソテーなど良さそうです。
さらに、「蒸し焼き」も良いかもしれません。鍋に少量の水分で蒸し焼きにすることで、イトヨリダイの身の特徴を最大限生かせるでしょう。
“イトヨリ”と“イトヨリダイ”の違い
イトヨリはイトヨリダイと違う魚?との疑問の答えは、「同じ魚」です。イトヨリダイのことを魚市場などで働く漁業関係者は”イトヨリ”と呼ぶだけのこと。
他にもイトヨリダイは「アカナ」や「イトヒキ」、「イトグジ」などとも呼ばれます。「グジ」とは甘鯛のことで、確かに体のフォルムが似ていますがイトヒキダイと甘鯛は近縁種ではありません。
- イトヨリは「スズキ目スズキ亜目イトヨリダイ科イトヨリダイ属」
- 甘鯛は「スズキ目スズキ亜目キツネアマダイ科アマダイ属」
イトヨリダイ(糸縒鯛)の名前に“鯛”がついている理由は後述しますが、イトヨリダイは鯛(タイ)の仲間でもありません。
「イトヨリダイ」の語源
イトヨリダイの名前の由来は、体を走る黄色の横線模様です。


泳いでいる時に体の線がまるで金糸を拠るように見えるとの理由が、「イトヨリダイ」の名前の由来。
体を走る5本(ヒレも合わせると8本)の線が、尾びれの上側からのびる一本の線にだんだん集約されている模様が、確かに糸を縒り合わせているように見えますね。
「イトヨリ」という名前意外に考えられないくらいピッタリな由来です。
「尾びれの上側から伸びる一本の線」というのが下の写真。
写真のように上側の尾びれが糸のように細く延びていますね。これもイトヨリダイの大きな特徴の一つで、糸は柔らかく、生物の機能としては謎。


イトヨリは“鯛(タイ)”の仲間?
先述の通りイトヨリダイは「スズキ目スズキ亜目イトヨリダイ科イトヨリダイ属」の魚であるため「タイ科」に属す鯛(マダイ)とは仲間ではありません。
なぜ“鯛”の名前が使われるかというと、鯛のように美味しいとか、鯛のように赤いとか、鯛にあやかった名前をつける慣習によるものです。これは「肖り鯛」と言って、イトヨリダイの他にも先ほど登場した「甘鯛(アマダイ)」も肖り鯛です。
イトヨリダイの体長は最大で40cmほど。日本のみならず台湾、中国、韓国、フィリピンなど多くのアジア諸国で愛される魚です。
比較的南のほうに多い魚ですが、最近の海洋環境の変化で産地も少しづつ変化しているようです。
水深40〜100mの砂泥地に生息する個体が多く、もっと深くでも見られると言います。寿命は4年ほどと言われます。
イトヨリダイのウロコは面白い
イトヨリダイのウロコはとても柔らかく、素手でも剥がせるんじゃないかと感じるほどです。
ウロコ1枚の大きさは、同じサイズの魚の中でもかなり大きいんじゃないかと思われます。


透明度も高くて少々見づらいですが、上の写真から大きさがお分かりいただけるかと思います。
イトヨリダイのウロコを剥ぐと、これまた柔らかい皮があります。火を通すと最高に旨い部位です。
控えめな歯を持つイトヨリダイ
口は比較的小さめだと思います。

よく見ると細かい歯がついていますが、持っている指が傷つけられるほどではなく、だいぶ控えめな口をしています。
数多くの魚嫌いをやっつけてきた彼らが、ふだん何を食べているのか気になるところです。なぜなら、魚の味には魚自身の食性が大きく関わってくるから。イトヨリダイは、小型のエビやカニ類を好んで食べるそうです。マダイと食性が似ているかもしれません。甲殻類を食べる魚にハズレなしですね。
でも、マダイに比べ歯の大きさが心許ないので、より小さめな甲殻類を食べているのでしょう。もしかしたらイトヨリダイの身質や味が繊細であることに関係があるポイントかもしれません。
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