【鮎(アユ)の別名】英語名、さまざまな名前の話

魚介の雑学

「若鮎の二手になりて上りけり」

“わかあゆの ふたてになりて のぼりけり”

正岡子規の俳句は鮎の遡上する様子を詠んだもので、春の爽やかさが感じられる句だとか。「若鮎」が春の季語ですね。

日本の食文化に無くてはならない存在である「鮎(アユ)」。古来から俳句や短歌でも歌われ、日本人ならほぼ知っているはず?のメジャー食材です。

長い歴史の中で人々に親しまれてきたことにより、鮎(アユ)には様々な呼び名が付き、いろんな逸話が残っているそう。

一方で、日本人にとって唯一無二のオンリーワン食材である鮎は、欧米諸国ではどのような扱いなのでしょうか。鮎の英語名をもとに少し調べてみました。

鮎(アユ)の別名、英語名、赤ちゃん名

そもそも、「鮎(アユ)」という言葉の語源とは?

諸説ありますが、神前に供えるモノであったことから「饗(あえ)る」という言葉が変化して「アユ」となったとする説や、秋の産卵期に川を下ることから、「あゆる(落ちるの意味)」が元になったという説が有力だそう。

そして、「鮎」の漢字にも意味があります。

昔の皇后が戦の勝敗を鮎釣りで占ったことから、「魚」に「占」という漢字が使われることになったようです(諸説あり)。

「鮎」の名前の豆知識は後ほど詳しく紹介するとして、西欧で鮎はどう見られているのでしょうか。

鮎の英語名「Sweet fish(スウィートフィッシュ)」

鮎(アユ)のことを西洋圏では「Sweet fish(スウィートフィッシュ)」と呼びます。もしくは日本語のまま「Ayu(アユ)」。

鮎の生息域は日本を中心とした東アジア一帯なので、西欧圏では食べない魚、つまり、アジアの食べ物が西欧圏に伝わる過程で、Sweet fishと訳されたのだとか。

なぜ「SweetFish(直訳すると「甘い魚」)」なのでしょうか。

後述しますが、「鮎独特の香り」が関係していると思われます。

鮎は昔からスイカやキュウリの香りがするとされてきました。

スイカは西欧圏にも存在する甘い食べ物で、つまりスイカから連想した「甘い魚」が、鮎の英語名の由来ではなかろうか。

ちなみに、西欧では鮎を食べる機会がそもそもありません。

鮎の存在自体を知らない人が多いと思うので、英語で「Sweet fish」と言っても意味が通じない可能性大です。

日本食に明るい西欧の方なら、「鮎=日本の食材」と知っているケースが多いと思うので、逆にそのまま「Ayu(アユ)」と言ったほうが理解されるかも。

日本国内での鮎の様々な別名についても見ていきましょう。

年魚(ねんぎょ)、銀口魚(ぎんこうぎょ)

まず、日本での鮎(あゆ)の別名で有名なものに、「年魚(ねんぎょ)」、「銀口魚(ぎんこうぎょ)」があります。

年魚とは、鮎の寿命が1年であることからの呼び名。稀に1年を経過しても死なない鮎が存在し、そのような個体は別枠で特殊な呼び名がありますので後述します。

銀口魚とは、こちらも読んで字のごとく泳ぐ鮎の口が銀色に光ることから付いた名前です。

ちなみに、「年魚」や「銀口魚」と書いて「あゆ」と読ませる場合もあり、見方によっては当て字であると言えます。

香魚(こうぎょ)

もうひとつ、有名な別名が「香魚(こうぎょ)」です。

先述した通り、鮎にはキュウリやスイカを思わせる香りがあると昔から言われてきました。このことから「香魚(こうぎょ)」との別名で呼ばれることがあるのです。

「鮎は独特な香りがする」という話は非常に面白くて、住んでいる川や、天然モノ、養殖モノによっても微妙に香りが異なるとされ、食べる餌が独特の香りに関係しているのでは?と推測できます。

ちなみに、中国でも鮎のことを香魚(読みは「シャンユー」)と呼ぶそうです。

一方で「鮎」という漢字は、中国では「ナマズ(鯰)」の意。さらに細かく言えば、古来の日本でも「鮎」の漢字は「ナマズ」を意味していたとか。

上で書いたように、その昔、皇后の占いに使われたので「鮎」の漢字は「アユ」の読みに使われるようになったとされています。非常にややこしい。

小鮎(こあゆ)

生息域の違いから付けられた鮎の別名を紹介しましょう。

それが、琵琶湖に生息する特別な鮎である「小鮎(こあゆ)」。

名前の通り、成魚になっても普通の鮎(小鮎に対し「大鮎(おおあゆ)」と呼ぶことも)より小さいことが特徴で、小鮎は、はるか昔に海産の鮎と別離し琵琶湖独自の生態となったと言われているのです。

琵琶湖を海の代わりと見立て、湖への流入河川へ遡上する者としない者がおり、後者は成魚となっても小さく、前者は他の海産鮎と同様に大きく成長します。

なお、ずっと淡水域で生態を維持していた小鮎は、海に下ると死んでしまうのでは?との意見もあるとか。

遥かな別離の時を経て、一般の鮎と小鮎には、遺伝子レベルでの違いが出ているそうです。

落ち鮎、錆鮎(さびあゆ)、古背(ふるせ)

時期によって変わる鮎の別名もあります。

産卵期である秋口、川を下ってきた鮎のことを幅広く「落ち鮎」と呼びます。

「落ち鮎」は俳句で秋の季語。

産卵期に入ると、雄(オス)は腹をオレンジ色に染め(婚姻色)、雌(メス)はオスを引きつける良い香りを出すとか。

そして婚姻色の出てきたオスは鮎特有のかぐわしいスイカのような香りが消え失せ、皮膚も幾分硬くなります。

交配が始まり、やがて雄鮎は「錆鮎(さびあゆ)」や「古背(ふるせ)」と呼ばれるようになり、雌鮎のお腹は大きくなっていよいよ産卵が始まるのです。

写真の一番小さい個体を除いた3匹は産卵期の雄(オス)であり、体が錆びたような色になります。

これが「錆鮎(さびあゆ)」の語源。

産卵期の鮎は、卵を産むと体力を使い果たしてしまいほとんどがその一生を終えるとか・・。

止鮎(とまりあゆ)

鮎の一生は1年で終わると書きましたが、産卵後、寿命である1年を越しても死なずに生きながらえる鮎が稀にいます。

これが止鮎(とまりあゆ)。

鮎社会の「猛者」なのか、それとも周りに馴染めない悲しい一匹狼なのでしょうか。

10月から12月頃にかけて鮎は産卵します。1尾のメスに対し2尾〜数匹のオスが取り囲んで行われ、メスが産卵した卵にオス達が精子をかけて受精する方式。石などに粘着した卵は2週間ほどで孵化すると、稚魚はただちに海へ出て沿岸域で暮らします。その後、成長とともに夏前になって遡上を行うというサイクルになります。

氷魚(ひお、ひうお)、シラス鮎

鮎の一生の始まりの時。

河川の下流域に生みつけられた卵から、鮎の小魚が孵化します。

冬の時期に生まれたばかりの幼魚は、半透明で氷のような見た目から氷魚(ひお、ひうお)と呼ばれ、大きさは3〜6㎝ほど。

ただし、地方によっては15㎝くらいまでの若魚を「氷魚」と呼ぶケースもあるとか。

さらに、幼魚である氷魚の見た目から、時に「シラス鮎」とも呼ばれ、他の魚の稚魚と同様に食用としても珍重されます。

「氷魚」は琵琶湖の冬の風物詩にもなっているそうですが、琵琶湖の鮎だけに使われる名前ではないので注意が必要です。

ちなみに、「氷魚」という漢字は、鮎と異なる別の魚で「コマイ」という魚の漢字名でもあります。とてもややこしいですが、鮎とコマイは全く関係ありません。

稚鮎(ちあゆ)、若鮎(わかあゆ)

春、成魚になる前の鮎のことを稚鮎(ちあゆ)や若鮎(わかあゆ)と呼びます。

名前の通り、鮎の稚魚の名前ですね。

体長は4〜8㎝。成魚の鮎と比べて一回り小さく、遡上する前の河口付近で春頃に獲ることができます。

氷魚(ひお、ひうお)との見分け方は、体の大きさ、ウロコの有無(稚鮎や若鮎はウロコがあるが氷魚はない)。そして何よりも獲れる時期が異なります。

若鮎は春の季語。

美味しそうなお菓子にもなっています。

その他さまざまな呼び名

  • 渓鰮(「けいうん」と読む。渓流のイワシという意味)
  • 細鱗魚(「さいりんぎょ」と読む。鱗が小さいの意)
  • 国栖魚(「くずうお」と読む。国栖[奈良]の人々が鮎を朝廷に献上した為)
  • 鰷魚(「はや」と読む。江戸時代の書物の「ハエ」の誤記)
  • アイ
  • アア
  • シロイオ
  • チョウセンバヤ
  • アイナゴ
  • ハイカラ

などなど。

本当にたくさんの呼び名とストーリーが存在する魚ですね。

鮎とアイナメ(鮎魚女)の関係

最後に、「鮎とアイナメ(鮎魚女)」についての話。

海の高級白身魚でおなじみ「アイナメ」というのがいます。

面白いことに、アイナメを漢字で書くと「鮎魚女」や「鮎並」などとなるのですが、その由来は?と言うと、簡潔に言えば「アイナメが鮎と似ているから」という理由らしいです。

鮎とアイナメは同じ魚だけど、接点のない者どうし。

別の魚の名前に使われるほど、「鮎」の存在感が大きいのだと言えるエピソードです。

鮎のオススメ料理養殖鮎と天然鮎の見分け方も紹介しています。

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