ボラは高級食材“カラスミ”の原料となる海水魚。他にも食べどころが多く、また食材としての歴史が古いので様々エピソードを持つ面白い魚でもあります。
さらに、ボラの顔を正面から見ると完全に“かわいい”という点は他の魚類と一線を画していて、ぜひとも紹介したいところ。
ボラの顔ふくめ、カラスミ以外のボラの魅力について注目してみました。
ボラのユニークな特徴。それは・・・、
- 実はボラ本体も旨い
- 珍味中の珍味「ボラのへそ」
- ボラの顔を正面から見ると、まるで・・・・
- 実は出世魚。ボラから生まれた有名すぎる慣用句の数々
- 不思議な生態。ジャンプしたり外洋に出たり
ボラの生態から食べ方まで幅広く調査してみました。
正面から見たボラの顔が完全に“かわいい”
ボラは世界中に分布する海水魚で、だいたい食用。日本国内でもあちこちで水揚げされます。
食材としての歴史が古く様々なエピソードを持ってるから色々と紹介したいのですが、中でもボラの顔を正面から見るとけっこうカワイイのでぜひ紹介したいところ。
ご覧ください。なかなかの“ゆるキャラ”感でしょ?

カラスミとか抜きにして、この時点で魅力的な魚じゃありませんか?ちょっとETっぽさも?・・・。
目が大きいところは、メダイとかに少し似ている印象もありますが、ボラの顔の造形は独特ですね。
背中側が平らで、腹側が尖った逆三角形▽の形をしています。この体型は魚の中でも結構珍しいのではないでしょうか。
ボラの顔が可愛いのは独特な口の形に秘密が。
開くとひし形。とても珍しいのがボラの口。

肉食の魚とはまた違うような何とも言い難い形で、しかも口が前に少し伸びます。

ボラがエサを食べる時はバイト(噛みつく)するのではなく、対象を砂ごと吸い込んで捕食します。食性は雑食で、プランクトン、底生小動物のほか、藻類や色んな有機物(微生物の死骸や破片など)を旺盛に食します。
ボラの可愛さの秘密は他にも。それは「目」。

可愛いかどうかは別として、非常に興味深いボラの目の構造を紹介します。写真だと分かりづらいですが、ボラの目は広い範囲で透明な弾力のある膜で覆われています。
これは脂瞼(しけん)といって、コンタクトレンズ状の器官。
分かりやすく例えると、人間が作業用のゴーグルをつけたり水中眼鏡をしているような感じ、とでも言いましょうか。目を保護するための膜の役目だと思われます。
ボラは海底の砂地に顔を突っ込んで食事をしますが、特徴的な口や目を覆う器官は、その食事スタイルに関係していると想像できますね。
「可愛さ」の視点からは少しズレますが、ボラのウロコが美しいのも特徴の一つと言えるでしょう。

鯉(コイ)を思わせるような、立派なウロコを持っています。“イセゴイ”の地方名もその辺りが由来なのかもしれませんね。
ボラの食べ方
その昔、ボラは高級魚でした。美味しくいただけるのは、やはり刺身。最近は「臭い魚」のレッテルが貼られることもあり、「高級魚」とか「生食できる魚」から遠ざかっているかも。
鱗と皮は硬いので引いて食べます。色が変わりやすく、捌いてすぐに(熟成せずに)食べる方が良いと感じます。
今、ボラが高級というイメージはあまりありません。昔は大衆魚だったけど高級化したアイナメのような魚もいれば、ボラのように逆のパターンもあるということ。カラスミは別としても、ボラ本体は非常に安く売られていることも多い印象です。
安く手に入れたボラは、単純に塩焼きでも良いと思います。捌いていて嫌なニオイのしないものは、皮つきのままでもOKです。
ちょっと臭いが気になっても、こんがり焦げ目がつくほど焼けば美味しくいただけるでしょう。または、バターソテーなどでも良さそう。
同じく嫌なニオイのしないボラは、アラから良い出汁が出て煮物にも最適です。
生姜や味噌を使うことでも、匂いが気になる時は有効。
ボラの生息域は海だけでなく河川にまで及び、しかも汚染に強いというタフネス魚。その生命力の強さが仇となり、汚れた環境で育つ”臭い魚”という残念な認識が広まってしまったのです。
手近な川などで釣ったボラが臭かったというのはよく聞く話。昔は汚い川や海も少なかったので、臭い魚と認知されるようになったのは最近のことです。
臭みのあるボラの食べ方は、釣ったらすぐに首を折って海水に5分ほど浸して血抜きをしましょう(その後すぐ氷水へ)。ウロコを摂って皮を引けば、臭いはだいぶ気にならないと思います。一番大事なのは、川のボラではなく海のボラを食すこと。川のボラが全部臭いわけではないけど海のものが美味で一般的です。冬に脂の乗った個体は「寒ボラ」と呼ばれて珍重されるほど美味とされています。
もう一つの珍味「ボラのへそ」
「幽門」と呼ばれる、胃の近くにある内臓器官も、珍味とされる部位です。
通称「ボラのへそ」
ボラの食性は、海底の砂ごと根こそぎ餌を食うという特徴があるので、泥を処理するための幽門も、筋肉が発達していて美味しいのです。
鮮度の良いものは軽く炙った程度の生で食べますし、塩焼きや炒め物でも良いでしょう。
コリコリとした食感で生臭さは少なく、1匹に1つでしかも小さいので、まさに珍味と呼ぶにふさわしい「ボラのへそ」。カラスミに隠れてあまり知られていませんが、ぜひお試しください。
七変化!出世魚「ボラ」の名前
盛りだくさんなボラの魅力は食べるだけではありません。
ボラは出世魚。
出世魚のことはサゴシやスズキの記事でも書いていて、成長によって違う呼び名を持つ魚のこと。
なぜ名前が変わるの?というと、漁師さんや料理人が魚の成長度合いによって取り扱い方を変えるので、分かりやすく名前を変えていたということだと思います。
ボラの場合、
関東 – オボコ→イナッコ→スバシリ→イナ→ボラ→トド
関西 – ハク→オボコ→スバシリ→イナ→ボラ→トド
高知 – イキナゴ→コボラ→イナ→ボラ→オオボラ
東北 – コツブラ→ツボ→ミョウゲチ→ボラ
出世魚としての横軸と地方名の縦軸が重なって、だいぶ多くの呼び名を持つ魚であることが分かります。
ボラが日本各地で古くから親しまれていることの裏返しとも言えるでしょう。
ボラにまつわる有名な慣用句(言い回し)
ボラの歴史は古く、慣用句にも使われます。
- 出世魚のボラ、最終系が「トド」であることから、「トドのつまり」と言われるようになった
- 若魚の時は、「イナ」。これは「いなせ(粋である様子)」の語源
- 幼魚のときの「オボコ」は、「オボコい(可愛い)」の語源
日常会話の言い回しに使われるほど、ボラが昔から身近な存在であったことの証明だと思います。
ボラの溢れる魅力を少しでも伝えられたら良いですが。
とどのつまりカラスミだけでなくボラ本体をもっと食べましょう!(強引)
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