ババガレイもナメタガレイも、「カレイ」という魚の名前のこと。
カレイ(鰈)を知らない人のために説明すると、海底に住み、平べったく珍妙な形、そして大衆的な食材となる海水魚、という感じでしょうか。
そんな「カレイ」には、様々な種が存在しており、
アカガレイ、マコガレイ 、ムシガレイ、ヌマガレイ、などなど・・・。
ババガレイとナメタガレイもそんなカレイの仲間というわけですね。
特に「ババガレイ(婆鰈)」という名前、たくさんのカレイ達の中で異彩を放っています。
なぜって、見た目は他のカレイ達と何ら変わりませんが、「婆(ばば)」という名前が際立っています。
「ババア」なんて、一般常識レベルで考えればただの悪口じゃないですか。
どうしてそんなキワドイ名前が付けられてしまったのでしょう。
今回は、ババガレイの名前の由来と別名の話を、有名なドイツの童話集「グリム童話」を織り混ぜながら紹介していきたいと思います。
ババガレイとナメタガレイの違いは?
冒頭で書いた通り、カレイ(鰈)にはたくさんの生物学的な「種」が存在していて、今回はその中の「ババガレイ」に注目していくわけですが・・。
まず、「ババガレイ」と「ナメタガレイ」は違う魚?と疑問を持つ人がいますが、両者は同じ魚です。
冒頭から、まわりくどい説明の仕方ですみません。
「ババガレイ」というのは標準和名の呼び名であり、「ナメタガレイ」はババガレイの別の名前にすぎず、1つの魚に、違う名前が付いているというだけのオチでした。
ババガレイとナメタガレイは同じ魚
ババガレイ=ナメタガレイ
両者同じ魚のことであることが分かったところで、もう少し名前について小ネタを。
ババガレイには「ナメタガレイ」の他にもいくつか別名があります。
同じ魚に2つ以上の違う名前が付けられるのは、日本ではごく普通のこと。
むしろ1つしか名前のない魚なんて、新種レベルのレア魚でもない限りこの日本には存在しないと言って良いかも。
ババガレイに関して言えば「アブクガレイ」や「アワフキ」をはじめ、覚え切れないほどの別名が存在しているのです。
さらに「出世魚」という概念を加えると、1匹の魚につき、またまた数多くの名前が登場してきてパニックに陥ってしまうでしょう(ババガレイは出世魚ではありません)。
「ババガレイ」と「ナメタガレイ」、名前の由来
まず、「ナメタガレイ」の「ナメタ」というのは「滑多」、つまり字の如く「滑りが多い」からであるとの説が有力とされます。
他にも、「美味しい魚なので皿まで舐めた(ナメタ)」という説もあるそうです。
いずれにしろ事実をそのまま名前につけているので悪い気はしませんよね。
一方、ちょっとした悪口にも聞こえそうな「ババガレイ」という名前はなぜ付けられたのでしょう?
標準和名である「ババガレイ(婆鰈)」の名前の由来は、皮がだぶつき薄汚れた感じの見た目から来ています。
年老いた女性を卑下する「婆」の字が使われるのも、決して美しいとは言えない外見から。
たくさんの呼び名を持っているにも関わらず、残念と言うべきか、ババガレイの標準和名は「ババガレイ」なのです。
ところで、さらっと「標準和名」と言ってますが、「標準和名」とは?
魚の標準和名とは
そもそも、生物には「学名」があります。もちろん生物とは魚類以外も含めて。我々人間にも。
ババガレイの学名は「MIicrostomus achne」だそうですが、これでは当てずっぽうでも読めませんよね。
学名は世界共通でラテン文字が用いられるため、日本人にはちょっと難解なのです。
そこで「標準和名」の出番というわけです。
学名に対応し、1種につき1つの標準和名を付け、覚えずらい学名の代わりに標準和名を覚えることで、生物学上の分類を理解しようとの趣旨。
ただし標準和名は学名と完全に1対1ではないらしくて、何故かというと、そもそも日本に存在しない生物には、標準和名ってあまり必要ないからです。
存在すら知らない生物は話題にも上がりませんよね?
もし研究などでその生物の話をする人たちが日本に居た場合でも、その人たちはきっと正式なラテン文字の学名を使うでしょうし。
とにかく、「標準和名」は学術的な名前の使い方であり、さらに言えば、生き物に対する全国共通の名前とも言える訳です。
その、全国共通の名前に「ババガレイ」って名前は相応しくないのでは??
美味しい魚なのに、なぜそこまで、まるで卑下されているような名前を付けられているのか。
なんだか可哀想な気さえしてきました。
「グリム童話」とカレイの話
ここで、ババガレイとは関係なさそうな「グリム童話」の話を紹介します。
「グリム童話」という童話集には、「カレイ」の登場する話があるのです。カレイとは、まさにババガレイのような魚のこと。
「カレイ」の童話を読んでみると、もはや悪口とも言えるババガレイという標準和名と、超有名な「グリム童話」に、共通点を発見することができました。
童話の内容を省略して要点だけ説明すると、グリム童話の中で、カレイは罰を受けてあのような出で立ちになった。というのです。
カレイの姿形は、「罰」だというのです。
標準和名の成り立ちとグリム童話の共通点、それは、
「カレイは見た目が醜く、悪役として描かれている」
ということ。
「見た目が良くない=悪いやつ」という方向性で名前を付けられたり、擬人化されている魚、それがババガレイなのです。
「ババガレイ」じゃなくて「ナメタガレイ」と呼んであげて
飲食業界では、「ババガレイ」の標準和名をあまり使いません。お客さんによっては不愉快に思う人がいるかもしれないからです。
もっぱら、三陸地方での呼び名「ナメタガレイ」を使います。
漢字で書くと「滑多鰈」となり、先述した通り「滑多(なめた)」、つまりヌメっとした魚の意で、客観的な事実ですし、名前で誰かが傷つくことはないでしょう。
むしろ、「ナメタガレイ」が標準和名にすれば良かったのに。
ナメタガレイ(ババガレイ)はどんな魚?
さて、ババガレイ改めナメタガレイについてもう少し詳しく紹介します。
体長は最大で60センチ。
前述の通り、カレイ科にはナメタガレイを含めてたくさんの種類が存在しますが、「オヒョウ」などのように巨大するものを除けば、大抵は30〜60センチくらいの体長になる種類がほとんど。
マコガレイなど他のカレイの仲間に比べると、若干ですが楕円形の形をしていることが多く、雄よりも雌の方が大きくなります。
産卵時期は3月〜4月で、生息域は、水深5mから400mの深海までと幅広く適応します。
そして最大の特徴は、何と言ってもこのヌメヌメ。

手で掴むことが難しいくらいヌメってます。写真だと伝わらないのですが。
カレイ科は概ねヌルヌルした種類であるとは言え、ナメタガレイはその特徴が際立っています。
さらに言えば、独特の匂いを放っていることが多く、人によってはこれを「泥臭い」と言い、他のカレイ種に比べてナメタガレイはその匂いが強いような気が個人的にはします。
強烈なヌルヌルと匂いには因果関係があるのかも。
食べ方は「カレイの煮付け」がマスト!
東北の方では、年末から正月にかけて行事等の席で食べるような特別感のある魚だそうです。ヒラメと同じく5枚おろしにして処理します。
夏は刺身でも食べられますが、カレイといえば煮付けの方が一般的ではないでしょうか。
マコガレイの記事で作り方を紹介しています。
ちなみに、ソテーして食べるのも美味しいですよ。ソテーの場合、皮が厚くまた臭みがあるなどと言われますが、バターなどを使ってじっくりと皮目を焼くことで美味しく食べることができます。
それと、カレイといえば「ヒラメとの見分け方」についても解説しています。
ナメタガレイ(ババガレイ)を通販で!
ということで、刺身や煮付け用に通販でナメタガレイはいかがですか?
また、記事中に登場した、グリム童話(改版)に収録されている「かれい」という話。
こちらのナンバーに収録されています。