「スズキの話をしているのに、なぜか会話が噛み合わない」でお馴染み、魚のスズキ(鱸)。
「鈴木(スズキ)さん」と言えば日本人に多い苗字で常に上位にランクしますが、魚のスズキさんも負けていません。

スズキは古来より日本人に親しまれている魚で、現在でもその価値は不変ですし、魚にあまり興味ない人でも一度は聞いたことのある名前じゃないでしょうか。
魚の中でメジャー級の知名度を誇るスズキ、実は「出世魚」です。
「出世魚ってそもそも何!?」から、スズキの雑学についても調べてみました。
出世魚「スズキ」の、成長によって変わる名前
スズキは「スズキ目スズキ亜目スズキ科」に属する、名前の通りスズキ科の代表的な魚。
ポピュラーな魚介類として時には大衆魚、時には高級魚として親しまれ、古来より脈々と食されてきました。古事記や万葉集にも登場し、文献によれば神事にも使われたりと、霊験あらたかな魚という側面も。
北海道から九州まで、日本に広く分布していて養殖も盛ん。養殖でなくとも一年中たくさん流通している漁獲量の多い魚で、釣りの対象魚としても王道中の王道。
高尚な顔と大衆的な顔を持つ魚の筆頭、スズキ。ちょっとお高めの割烹料理やイタリアン、フランス料理などのお店でも人気のお魚。
日本人にとって特別な魚と言っても良いスズキは「出世魚」として有名です。つまり、成長度合いにより呼び名が変わるということ。
スズキの成長と名前の変化
出世魚スズキは成長によってどのように呼び名が変わるのでしょうか?出世の仕方は?
「出世の仕方」と言っても、媚びを売るとか下克上とかの話ではありません。
スズキの呼び名は成長度合いにより以下のように変わります。
呼び名 | 成長の状態 |
コッパ | 幼魚 |
ハクラ | 15㎝以下 |
セイゴ、デキ | 1歳、15〜30㎝程度 |
フッコ、ハネ、マダカ | 2〜3歳、35〜40㎝程度 |
スズキ | 4歳以上、60㎝以上 |
「魚の呼び名は地方によって変わる」というややこしい要素が加わるため、同じ出世段階のスズキでもさらに細かく名前が分かれます。
(出世魚の名前の変化)+(地方名)
たくさんの名前が登場してかなり複雑になりますね。
また、出世において名前の変化の境目はとても曖昧です。
スズキの若魚の通称は?
スズキが成魚になる前の若い時、つまり「若魚(わかうお)」の時の通称は、上述の呼び名の一覧によると「セイゴ」、または「フッコ」となります。(ただし地域によって呼び名は異なる場合もある)
若魚「フッコ」と成魚「スズキ」の違いは体のサイズ。しかし、個体差もあるので先述の通り見極めの境は曖昧。
例えば、下の写真は魚市場で「スズキ」として売られていたもの。

しかし、測ってみると40センチ弱。本来なら出世段階に照らすと「フッコ」のはず。

加えて、体の表面をよく見ると、斑点のような模様が見えます。
スズキの若魚にはこういった斑点がある個体もいるようで、成長と共に消えてしまうこともあるようです(消えないこともある)。
ということで、なおさら「スズキ」ではなく「フッコ」なのでは?となりましたが、スズキとして売られていましたし、別に販売店に文句を言えることでもないと思います。
つまり、同じ魚を出世魚として別の名前で呼ぶのは、漁業関係者やお魚屋さんそれぞれの判断によるところが大きいということが言えます。
スズキに限らず、出世魚の名前の変化における境目はかなり曖昧なのです。
そもそも出世魚とは?
「出世魚」とは?
出世魚(しゅっせうお)とは稚魚から成魚までの成長段階において異なる名称を持つ魚。江戸時代までは武士や学者には元服および出世などに際し改名する慣習があった。その慣習になぞらえ「成長に伴って出世するように名称が変わる魚」を出世魚(しゅっせうお)と呼ぶ。「縁起が良い魚」と解釈されて門出を祝う席など祝宴の料理に好んで使われる。ブリ・スズキ・ボラなどが代表的。
wikipediaより
だそうです。
名前が変わる魚を、江戸時代の慣習になぞらえて「出世魚」という。
でも何で名前が変わるの??というと、
成長度合いで見た目が異なるから。
大きさが違うなど見た目が異なる魚は、用途(食べ方など)も変わってくる為、漁業関係者の方たちは違う名前で呼んだ方が都合が良かったのだと思います。
古くからの慣習みたいなもので、人それぞれの主観が大きく影響しているのでしょう。
お魚「スズキ」の由来
お魚スズキはなぜ「スズキ」と呼ばれるのでしょうか。
由来には諸説あり、
- 出世魚なので、出世に“すすむ”ことから説
- ウロコが“すすけ”た色であるから説
- 身が“すすい”だように白いから説
- 身が清らかだから説
- 口が凄まじく大きく開くから説
など、明確には分からず。
ちなみに、「ヒラスズキやシーバスは出世魚のスズキとどう関係してくるの?」と疑問に思う場合は以下記事を参照してみてください。

フランスやイタリア、アメリカなどでも、日本のスズキと似ている魚が食べられています。
スズキは食用として非常に多く流通する人気魚。その味は、時に高級料理に、あるいは大衆魚として家庭の食卓に並んだりもします。
釣りの対象魚としても人気なので、釣った魚を持ち帰って食べるということもあるでしょう。
白身魚ですが淡白すぎず、活け締めのものは刺身でも非常に美味。
しかし生息する場所によって味が大きく変化する魚でもあります。スズキはクロダイと同じく汽水域(河川と海の交わる場所)にも生息し、特に河川域で育った個体は臭みの強いケースもあるので要注意です。
(豆知識)スズキの浮き袋の役割
ここからは出世魚の話から脱線しますが・
スズキに限らず、ほとんどの魚には「浮き袋」があります。
この用途を簡単に説明すると、「浮力調整のため」です。
中の空気量を調整することで、少ない力で海の中の上下の位置を移動できるというわけです。
浮き袋がどんな形をしているかというと、魚によって様々ですがそのまま「浮き袋」の形をしていることがほとんどな気がします。
スズキの浮き袋はこちら。

画像の白いところが全部浮き袋。
ここに空気が溜まっている時、袋を針で刺すと、風船みたいに「ブシューッ」と空気が抜ける場合もあります。

スズキは古事記、万葉集だけでなく平家物語にも登場
スズキは日本の由緒ある物語や歌などに数多く登場する魚です。
例えば、古事記、万葉集、平家物語に登場します。
古事記では、櫛八玉神(くしやたまのかみ)が建御雷神(たけみかずちのかみ)に、「漁師たちの取るスズキを絶えず供えます」といったニュアンスの言葉の中で。
万葉集では柿本人麻呂(かきもとのひとまろ)の歌として、
「荒栲(あらたえ)の藤江の浦に鱸(すずき)釣る海人(あまと)とか見らむ旅行く我れを」
とあります。
意味を一部予想すると、「私のことをスズキを釣る海の民だと見るだろうね」的なことかと思いますが、違ってたらすみません。
さらに平家物語では、平清盛が熊野参詣(さんけい)の途中、船にスズキが飛び込むという件が。これは吉兆とされ、後に平家が繁栄する様子が描かれています。
神聖で身近な、愛すべきお魚「スズキ」。筆者個人的にも、強そうでカッコイイので大好きな魚です。
出世魚として複数の名前を持つ魚は、成長度合いで見た目も異なるのでちょっとややこしいですね。
出世魚の呼び名というのは結構ざっくりとしています。間違った名前で呼んでしまったとしても、あまり大ごとではありません。
気になるなら、例えばスズキの場合、幼魚のときも成魚の「スズキ」の呼び名を使って一貫してそう呼んでいれば、少なくとも間違いではないでしょう。
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