キビレは、言わずと知れた魚の王様「マダイ」と同じ「タイ科」に属す魚。知名度が低くて地味だけど、味が良いので根強い人気があります。
実は「キビレ」の呼び名は通名で、標準和名を「キチヌ」というのですが、同じタイ科の魚でキビレよりも有名なクロダイは別名「チヌ」とも呼ばれます。チヌとキチヌ。めっちゃ似てますよね。
名前だけでなく、チヌとキビレ(キチヌ)は外見も似ているので見間違えることもしばしば。当然、味も。
上の写真のように並べてみると違いは明白に思えますが、それぞれの個体差によって見違えてしまうケースが往々にしてあります。
体のパーツをよく観察し比較してみると、チヌとキビレ(キチヌ)を見分けることが可能なので、今回は両者の違いを確認していこうと思います。
キビレ(キチヌ)とチヌ(クロダイ)の違いと見分け方
キビレとチヌは別々の種。つまり違う魚。
- キビレ → 「スズキ目スズキ亜目タイ科クロダイ属キチヌ」
- クロダイ(チヌ) → 「スズキ目スズキ亜目タイ科クロダイ属クロダイ」
ざっくり言えば遺伝子レベルで違う魚ということですが、非常に良く似た近縁種なので見間違うケースも多いです。
どのくらい似ているか。それは世にキビレとチヌの「交雑種」が存在する/しないの論争があるほど。それほど似ていて間違うケースが多いことの裏返しと言えるでしょう。
キビレとチヌの違い
キビレとチヌ(クロダイ)を並べてみて最初にすぐ気づくのは、「色の違い」でしょう。
色が薄い方がキチヌ。名前の通り黒い方がクロダイ。

しかし、時に見分けがつかないほど同じような色をしている個体が存在します。キビレ/チヌに限らず、魚は本当に個性豊かで、住む場所や季節、鮮度によって体の色に差がでます。
また、〆てから大きく変色するケースも。キビレとチヌの場合は生きている時のほうがよく似た色合いだと思います。死んでからの変色で大きく差が出る2種だと思います。
・・・ということで、基本的には体の色は違うけど、時に「あれ、これどっち?」となるケースが。
体色の違いより、もうちょっと踏み込んだ見分け方も紹介。
- キビレはチヌよりも顔が小さい
- キビレは腹、尻、尾のヒレが黄色がかっている(チヌは黒っぽい色)。
- 側線から上の鱗の数はキビレとチヌとで異なる。
なお、食材における知名度や人気は、チヌ(クロダイ)に軍配。流通量や価格も、チヌが上だと思います。
チヌよりキビレの方が小顔
よく使われるキビレとチヌの見分け方は「顔の大きさ」で、チヌよりもキビレのほうが顔が小さいです。
差は僅かながら、見慣れると確実に判別可能なポイントです。
よく見比べれば確かにキビレの方が顔が小さいことが分かるでしょう。相対的に、目もキビレの方が小さめです。
加えて、チヌよりキビレのほうが顔が凶悪。これは筆者独自の目線ですが・・。

写真からは分かりませんが、なかなか立派な牙も持っていて、甲殻類を噛み砕くための頑丈な歯を持つのはキビレもチヌも共通。
キビレは体が少し黄色い
キビレは、腹ビレ、尻ビレ、尾ビレ、の三ヶ所、またはいずれかが黄色味がかります。
名前の由来にもなっている特徴的なポイントなので覚えておきましょう。
「黄色いチヌ」、あるいは「黄色いヒレ」の名の通り、体の中で黄色いところがあれば、その魚はチヌではなくキビレ(キチヌ)です。チヌは体に黄色い箇所はありません。
〆た魚のヒレはすぼまっていることが多く見づらいです。調べる時はヒレの棘(トゲ)に注意してください。先が尖っているので一瞬で出血します。

キビレとチヌは側線から上の鱗の数が違う
最も確実だと言われているけど、少し難しい見分け方は、キビレとチヌのウロコの数の違いを見る方法。
人間に個性があるように、魚にも例えば体の色が黒っぽいキビレとか、色の薄いチヌが存在します。その際の手段に、鱗の数をチェックするやり方があるのです。
「側線」というのは、魚の体の表面にある感覚器官で、以下の写真の黄色の線の部分のことを言います。(機能について、詳しくはアイナメの記事で紹介)

上の画像のキビレは、側線から上の赤丸印の部分、鱗の数は3.5枚であることがわかります。
一方、下はチヌの側線部分のアップ写真。

めちゃくちゃ見づらくて申し訳ありませんが、チヌは5.5枚あり、鱗の大きさもキチヌより小さいです。
目視で実物を見れば、すぐにわかる特徴です。
これらの互いの相違点を総合的に確認し、海釣りの時など、種の判別に役立ててみてください。
キビレとチヌはどっちが美味しい?

キビレとチヌの味はとてもよく似ていますが、一般的にはチヌ(クロダイ)のほうが価値が高いことが多いです。ただし本当に味を比べて見分けるのは難しいでしょう。
キビレやチヌの味はマダイとスズキの間といったところでしょうか。皮がしっかりと厚く、皮を引いて刺身でも、皮目をつけて焼き魚にしても優秀。白身の上品な味はマダイやチヌ(クロダイ)ゆずり。季節によって脂もしっかり乗るので、どんな食べ方でもオールマイティな魚だと思います。
キビレはチヌよりもやや安価なことが多くコスパの良い魚と言えるかもしれませんが、流通量の面ではクロダイより少なくて希少性は高いと思います。
キビレとチヌの共通点は?
キビレもチヌも同じ「クロダイ属」なので近縁種ですので、生物的な共通点を持ちます。
まず2種とも淡水域でも生きていける性質があります。「川鯛」の地方名があるくらいでチヌが淡水性の魚であることは釣り人には有名でしょう。(※ややこしいですが、川鯛と呼ばれる魚は他にもいる)
チヌは性転換の機能を持っており、しかもオスからメスへ変換する珍しいパターンで知られています。これを「雄性先熟」と言い、キビレも同じ雄性先熟の魚として知られます。(ちなみに、雄性先熟で有名なのはクマノミ類。人気者「カクレクマノミ」も性転換する魚というのは意外な事実。)
成魚の大きさもほぼ同じ(ややクロダイのほうが大きくなる)で、だいたい45cm〜50cmまで成長します。
生息域も共通して内湾や汽水域。・・・ですが若干の違いもあり、キビレは河口域で多く見られるようです。チヌは河口域にも生息しますが、内湾全域に広く分布するイメージです。
キビレとチヌはあまりに似ていて、先に書いたように交雑種(キビレとチヌが交配して生まれた魚)の噂が絶えません。筆者調べではそのような証拠は見つけられませんでしたが、可能性は多いにあると思います。なぜなら魚類界のみならず生き物の世界で異種交配の話は複数あるから。
ところで、キビレ(キチヌ)やチヌの「チヌ」って何ですかね?
「チヌ」はもともとは関西地方での呼び名でした。その昔、大阪湾を「茅渟(ちぬ)の海」と呼んでいたらしく、その茅渟の海でたくさん獲れたのが、チヌ(クロダイ)だったというわけです。
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