アニサキスの見つけ方と対策【魚介類の食中毒】

寄生虫アニサキス 魚介の寄生虫

生の魚介類を食べる時、常に頭をよぎるフレーズがあります。

そう、「食中毒」。

魚介類による食中毒、つまり「食あたり」には、実は色々な原因があります。

  • 細菌
  • ウィルス
  • 寄生虫
  • 化学物質
  • 自然毒

…などなど。

似たような食中毒症状でも、原因は違ったりします。

寄生虫「アニサキス」を由来とする食中毒のことを「アニサキス症」と言い、魚が大好物だという人にとって恐れるべき食中毒のひとつなので覚えておきましょう。

今回は「アニサキス症」とは何か。見つけ方と予防策。そして運悪く症状に見舞われた時の対処法を解説していきます。

今回の記事は、魚の内蔵の画像や生きた寄生虫の動画を載せてます。どうしても気になる方は画像や動画のリンクをクリックしてご覧いただけます(見ない方が無難)

「アニサキス症」とは?

「アニサキス症」とは、「寄生虫」を原因とする食中毒のこと。

冒頭で書いた通り食中毒の発症には様々な原因があり、魚介類に寄生している生き物「アニサキス」も食中毒の原因の一つ。

最近の海洋環境の変化で、暖かい海が広がったことでアニサキス症も増えているとの話もあり、サンマからアニサキスを発見した例もニュースで報じられました。

良く聞くのはサバやホッケ、鮭、イカ類でしょうか。サンマは筆者も聞いたことありませんでした。

アニサキスとは一体なんなのか?症状は?対策は?

そもそもアニサキスって何?

アニサキスは「回虫目アニサキス科アニサキス属」に属する線虫の総称。当たり前ですが、生き物です。

「総称」なのは、実はアニサキス属は細かく見ればいくつかの種に分かれるから。しかし気にする必要はありません。ぜんぶまとめて食中毒のリスクありの生き物たちです。当然ながら、寄生虫として魚介類を宿主にする特徴も同じ。

実際のアニサキスはどんな姿をしているのでしょうか?

画像クリックでアニサキス

上の写真は、比較的鮮度の良いヒラメの内臓で、実はたくさんのアニサキスが写っています。

そもそも魚の内臓を見慣れているという人は少ないでしょうから、写真の中のどれがアニサキスか判別するのは難しいかもしれません。

下の写真の赤丸はぜんぶアニサキスです。

画像クリックorタップでアニサキス

アニサキスは蛇のようにグルグル丸まった姿でいることが多く、また、本来は生きている魚の内臓に寄生しているので、魚が死んでも鮮度が良ければ、写真のように内臓に止まっていることがほとんど。

しかし、宿主である魚などが死んでしまうと、内臓で暮らしていたアニサキスは内臓の外膜を突き破って身のほうに移動します。

つまり、魚の内臓を食べなければ大丈夫ということでは決してなく、鮮度によっては刺身など魚の身を生で食べるとアニサキスを知らずに食べてしまうことも。

ちなみに、アニサキスは魚介類を宿主とする寄生虫と書きましたが、最終的にはイルカやクジラなどに寄生して成虫となります。

人間が食べる魚に寄生しているアニサキスは幼虫で、今回の記事で話題とするアニサキスは全て幼虫のことです。

ホッケに寄生してた“シュードテラノーバ”

アニサキス属の近縁で、「アニサキス科シュードテラノーバ属」と呼ばれるアニサキスによく似た寄生虫もいます。ざっくり言えばコイツも「アニサキス」です。

アニサキスとシュードテラノーバの違いも記事にしています。

シュードテラノーバの宿主として有名なのが「ホッケ」です(以下動画参照)。

シュードテラノーバに限らず、宿主が死んでしまうとアニサキスは内臓から膜を破って体内へ移動していきます。先ほど書いた通り。

上の動画でご覧のように、死んでから時間の経過した魚には、内蔵ではなく身の方に生きたアニサキス(シュードテラノーバ)が移動している可能性があります。

これを知らずに生のまま食べることで、運が悪ければアニサキス症を発症します。

※シュードテラノーバを由来とした食中毒も「アニサキス症」と呼ばれますが、厳密には「シュードテラノーバ症」と呼ばれることもあるようです。

【比較】サケとホッケに寄生してた“アニサキス”

サケとホッケは、どちらもアニサキスの宿主として有名な魚ですが、

それぞれに寄生していたアニサキスを取り出して比較すると、形が微妙に違うことが分かります。左のカップがサケで「アニサキス」、右がホッケにいた「シュードテラノーバ」です。

どちらを食べても、人間にとってはアウトの可能性高し。ただし、アニサキスを摂食しても食中毒にならないケースがあります。

「アニサキス症」の症状

アニサキスを体内に入れてしまうと、「胃アニサキス症」、「腸アニサキス症」、「腸管外アニサキス症」のいずれかが発症する場合があります。

食後すぐから、数時間後に発症するのが「胃アニサキス症」で、十数時間から数日後に発症するのが「腸アニサキス症」の可能性が高いと言われています。

多くのアニサキスは人間の消化管壁をだいたい貫通しませんが、もし貫通してしまうと寄生虫性の腹膜炎や肉芽腫を引き起こすそう。これが「腸管外アニサキス症」。簡単に言うと、腸を破って体内に入ってくるということ。

いずれのアニサキス症も激痛を伴いますが、その痛みの原因は後述するアレルギーが原因の場合もあるそう。

食中毒としての主な症状は以下。

  • 激しい腹痛、悪心、嘔吐
  • 下痢、下腹部痛、腹膜炎症状
  • 血圧低下、呼吸不全、意識消失

ちなみに、生きたアニサキスを体内に取り込んでしまっても、食中毒の症状を起こさずに排泄されてしまう場合もあり、実はこのケースがほとんどであると言う人もいます。

もともとアニサキスは人間を宿主として想定しておらず、体内に入るといずれは死滅してしまいます。

アレルギーにも注意

アニサキス本体が原因ではなく、アニサキスを由来としたアレルギー性食中毒にも注意が必要。

原因物質を持つ魚介類を1回目に食べた時は発症せず、2回目に原因物質が人の体の中に入って発症し、この「原因物質」というのは、簡単に言えばアニサキス自体が出している”何か”。研究による数種類の物質が確認されているそうです。

アニサキスによるアレルギー症は、直接アニサキスが体内に入らなくても、アニサキスを由来とする原因物質により発症してしまうことがポイントです。

魚介類を食べた時の蕁麻疹の多くは、このアニサキス由来のアレルギー症状だとも言われているらしく、症状が重いと、アナフィラキシーショック(血圧降下、呼吸不全、意識消失など)を起こす可能性もあるとか。

アニサキスの症状(痛み)はいつまで続く?

寄生虫アニサキスは、本来なら人間を宿主としない生き物なので、ヒトの体内では長く生きられません。

それでも腹痛をはじめとした食中毒の諸症状を引き起こすのですが、放置していればアニサキスは死滅し、一般的には4〜5日で症状が治っていくのだそう。

ただし、もっと長く胃痛が続いたとの話もあり、状況によって多少の違いはあるかもしれません。

アレルギー症については、ざっくり言えば他の食物アレルギーと同じ症状だと認識して良いと思います。

繰り返しになりますが、例えアニサキスを食してしまったとしても、症状を全く発生しないというケースもあります。

生きたアニサキスを食べたとしてどのくらいの確率で発症するかは分かりませんが、発症する方が確率が低いという人もいます。ただ確認のしようもなさそうですし、過度に恐れなくても対策を怠るべきではないでしょう。

アニサキスによる死亡例

アニサキス症を直接の原因とした死亡例は、調べた限りでは見つかりませんでした。

しかし、すでに書いたようにアニサキス症は「胃」の中で起こるものと、「腸」で起こるものがあり、後者の場合は「腸閉塞」を起こす危険性があります。その場合、外科的手術を要す場合もあるようです。

大元の原因がアニサキス症の発症で、手術を原因とした二次的な病気になるというケースはあるかもしれません。

また、アニサキスが原因のアレルギー症状は、他の食材などによるアナフィラキシーショックと同様に、最悪の場合は命の危険もあります。

アニサキスの見つけ方と予防法(加熱、冷凍、切断)

これまではアニサキス症にかかってしまった時の対処法を紹介してきました。

アニサキスの見つけ方と予防法についても解説します。「魚介類を食べる前の対策」です。

予防策は以下が効果的。

  • 魚を加熱する
  • 魚を冷凍する
  • 魚を細かく切断する
  • 鮮度の良い魚を食べる

なお、酢締めや塩漬けなど、魚の身を強めの酢や塩に漬ける料理法がありますが、それでは死滅しません。

アニサキスの見つけ方と摘出法

アニサキスは小さいですが目に見えるサイズではあります。

どうしても生食したい場合で冷凍も難しい場合は、目視で魚の切り身などをチェックし、見つけたら取り除くのも有効です。

あるいは、魚のフィレや、イカの切り身を強めの光に透かして見てください。アニサキスの影を発見できるでしょう。

刺身に切る時に、極薄で切るのも発見につながります。

また、見つけ方のコツとして、アニサキスが侵食した魚の身は「内出血したようになっている」ことも一つポイントと言えます(下の写真)。

しかし、見逃してしまうリスクは決して低くはないので、目視で見分けるのは難しいかもしれません。

発見をサポートする道具もある

近年、調理道具もどんどん便利になってきています。

アニサキスを目視で発見するのに役立つ道具も様々あるようです。

i-Spector

まずはかなりの大物である「i-Spector」という検査装置。

要するにアニサキスを目視で発見しやすくしてくれます。

アニサキスの角皮に含まれるタンパクは紫外線に反応して光るそうで、このi-Spector、単にライトを当て明るくするから見やすい、みたいな程度ではなく紫外線を当てることで強力に発見をサポートしてくれる業務用装置です。

ちょっとお値段は高め。

そして分厚い身の奥に潜んでいたりする場合、i-spectorのような大掛かりな機械でも100%発見できるわけではありません。

クリーンチェッカー

i-Spectorを小型化したような製品がこちら。

原理はi-Spectorと似ており、その上で小型化、軽量化され、さらに値段も比較的リーズナブル。

抗菌ブルーかるがるまな板

ただのまな板に見えますが、色がブルーになっていることにより、魚の身についた異物を発見しやすいそうです。

前の2つよりも安いですが光を照射するわけではないので、「アニサキスを発見する」という能力においては劣るでしょう。

しかし、魚の処理でまな板は必ず使うものなので、こういった工夫があるまな板を選んでも良いかもしれませんね。

アニサキスに酢、塩、干物、電流は効く?

アニサキスの寄生事例の多いサバは「しめ鯖」で有名ですが、強めの「酢」や「食塩」で魚の身を漬けても、アニサキスは死滅しません。

想像以上に生命力が強い生き物のようです。

干物に加工しても生きている可能性があります。特に一夜干しなどの生干しでは死滅の可能性は低いかもしれません。干物は食べる時に火を通して食べるべきです。

では、電流は?

とある研究で、日本国内で販売できないほど超高電圧のスタンガンをアニサキスに当てた実験があるそうで、結果は失敗。通電したアニサキスは動かなくなったが、数日後に復活したそうです。・・・おそるべし。

アニサキスは加熱か冷凍で退治できる

「60℃で1分以上の加熱」をするとアニサキス(シュードテラノーバも)は死滅します。

割と低温で死滅しますので、火を通すことは大きな予防となり、発症のリスクは激減するでしょう。

魚介類の生食にリスクがあるので、心配な人は加熱することをおススメします。

また、アニサキスは「−20℃で24時間以上」冷凍することで死滅します。

家庭用の冷蔵庫で、−20℃はハードルが高そうです。

刺身などの生食の場合は、冷凍による駆除が良さそうですが、難はあるかも。

そもそも一度冷凍した刺身は、味のほうも損なわれてしまうのでなるべくなら避けたいところです。

物理的に体を切断して退治

上の動画で紹介した通り、アニサキスは小さいミミズのような姿をしていて、体を半分に切断すると死滅します。

包丁などで物理的に切って殺してしまえば、予防となるでしょう。

イカの刺身に細かい包丁の切れ目が入っていることを目にしたことはありませんか?あれは寄生虫予防のための昔の人の知恵と技術です。

あるいは、包丁で念入りに叩いてミンチ状にする等。

ただし、「食べた時、よく噛めば歯で噛み切れる」という説がありますが、これは疑問だそうで、アニサキスを意図的に食べた人の話を信じると、アニサキスの体はかなり硬いそうです。「人間の歯で噛み切るのは難しいかも?」とのことでした。

鮮度の良い魚を食べる

アニサキスは、宿主が生きている時は内臓に寄生しています。

死後、時間が経つと腹膜を破って身の方に進出していきます。

この特性を利用すれば、魚の鮮度が良いならアニサキスはまだ内臓に止まっているので、内臓さえ除去してしまえば感染する可能性はかなり低くなります。

鮮度の良い魚介を食べることは、味のみならず寄生虫リスクも減らすことにつながります。

魚を生食する時は鮮度バツグンのものを選びましょう。

アニサキスはマイナス4度以下くらいになると活動が極端に低下するそうです。サンマなど青魚が売られている場面で、たっぷりの氷水に入れられている光景を見たことはありませんか?

青魚の鮮度をキープする目的もありますが、内臓にいる寄生虫を身に移動させないためでもあるのです。

アニサキス予防に関する最新の研究

アニサキスの退治方法で電流を使う方法について触れました。超高圧の電流でも死なないタフな生き物。

しかし、熊本大産業ナノマテリアル研究所とジャパンシーフーズという水産加工会社の研究グループにより、瞬間的に電気を流してアニサキスを退治する実験に成功したとの情報が。

「パルスパワー」と呼ばれる軍事利用されるような技術を使うことにより、今後、アニサキスが駆除できるとして広く活用が期待されているそう。

魚の身には最小限のダメージながら、中に潜むアニサキスを短時間の大きな電力で駆除。

軍事技術を使わなければ退治できないとは、なんたる生命力・・。

アニサキス症になってしまったら

予防のための対策を取っていても、アニサキス症を発症してしまった場合、どうすれば良いのでしょうか?

まず言えることは、速やかに病院に行くこと

食中毒の症状がアニサキスによるものなのか、違う原因なのか、そもそも食中毒による腹痛であるか分からないからです。

アニサキス症の治療について

アニサキスは人の体に入ると猛威をふるうものの、何もしなくても症状が治ることはあるらしいです。

ヒトの体内に入ったアニサキスは生きたまま排泄されるか、数日で死んでしまうからです。

しかし前述の通り、運悪くアニサキス症が出てしまうと激痛を伴いますので、我慢せずお医者さんに行きましょう。

筆者の知り合いで、アニサキス症と思って医者にいったら診断の過程の中で「癌」であることが判明した、というケースがありました。

アニサキス症に限らず、激しい腹痛に見舞われたら、素人判断せずに専門家に診てもらいましょう。

アニサキスに「正露丸が効く」は本当か?

アニサキス症の治療薬は、残念ながらありません。

しかし、2014年、ラッパのマークで有名な「正露丸」が、アニサキス症の緩和効果があるとのこで製造元の大幸薬品が特許を取得したという話をご存知でしょうか。

「正露丸」はアニサキス症に対する薬剤としては認められていないものの、同社によると、患者に服用して改善が見られたそうで、一定の効果は期待できるかもしれません。

内視鏡による胃内のアニサキスの摘出が必要となった場合にも、アニサキスの活動を抑えることで手術を容易にするとして期待が高まっているそうです。

最後に身も蓋もないことを言ってしまうと、魚介類を食べなければアニサキス症を発症することはありません。

しかし、魚介類が大好物な人に耐えられるでしょうか?

  • 活け締めで処理された魚介を「分」単位で早めに食す。
  • 紫外線や色付きのまな板などを利用。
  • 薄切り(薄造り)やたたきなど、調理の工夫を。
  • 解凍もの(カツオとか)を食べる

このへんに気をつければ、今のところ100%ではないけどまぁ大丈夫だと思います。特に鮮度と締め方は大事だと思います。

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