イシナギの肝臓には食中毒の原因となる物質が含まれる可能性がある

魚介の雑学

イシナギ(石投)は、たまに2mの個体が水揚げされるなど全国的なニュースになる海の巨大魚。

日本では古くから食用魚として親しまれてきましたが、スーパー等ではあまり見かけないレアな存在でもあります。

イシナギは刺身でも焼き魚でも美味しくいただけますが、1つ注意があって、中毒の危険があるので肝臓を食べてはダメということ。

どのくらい危険かというと、厚生労働省や消費者庁が定める食品衛生法で食用禁止措置が執られるレベル。つまり、公的に「イシナギの肝臓は食べちゃいけません」と言われているわけです。

でも、危ないのは肝臓だけで身や筋肉など他の部位は食べても問題ありません。ちょっと良くわからないという人のために、イシナギが持つ食中毒の危険性を紹介していきます。

イシナギの肝臓には“毒”があるの?

イシナギは「スズキ目スズキ亜目イシナギ科イシナギ属」に分類される海水魚。白身魚。

食材だけど流通量は少なく、一般家庭では馴染みの薄い部類の魚だと思います。産地でよく消費される「地魚」と言って良いかもしれません。刺身をはじめ焼き物、煮物、何でも美味。

北海道など寒い地域に多く分布し、南は高知くらいまで生息しています。水深400m以深で見られる深海魚で、体長2mに達する巨大魚でもあります。

ちなみに「イシナギ」は俗称で、正式には標準和名「オオクチイシナギ 」。一部地域では「モロコ」と呼ばれ、高級魚であるクエと同じ別名を持つ大変ややこしい魚。

そんなイシナギ、肝臓を食べると食中毒になる恐れあり!という話です。肝臓には「」があるということ?

イシナギの肝臓で「ビタミンA過剰症」になる恐れ

魚介類による食中毒と言っても原因は様々で、細菌や寄生虫由来で発症することもあります。

イシナギの何が危険なのかというと、肝臓の食べ過ぎによりビタミンA過剰症になる恐れがあります

「ちょっとピンと来ない」というか、名前にあまり危険性を感じないという人のために詳しく説明すると・・・。

「ビタミンAって、あの・・・?」はい。その通りで、健康補助サプリでお馴染みのやつです。少量なら体に良いけど、過剰摂取は体に毒ということでしょう。

本来「毒素」とは言えないかもしれませんが、中毒になるほど危険な量を含有するのがイシナギの肝臓。つまりイシナギ中毒はれっきとした食中毒で、その特性(症状)をまとめると以下となります。

  • イシナギの肝臓を食べると発症。老成個体は身の脂も危険
  • たくさん食べると危険と言われている。
  • 食後30分〜数時間で発症。
  • 激しい頭痛、嘔吐、発熱などの症状。顔面や頭部の皮膚の剥離
  • 死亡例はない(調べた限りでは)。回復に20〜30日。
  • 加熱してもダメ

特筆すべきは症状で、顔面や頭部の皮膚が剥がれ落ちるというのは珍しいかも。また、老生個体つまりイシナギの巨大魚は身を食べるのもリスクがあるということになります。

イシナギによる食中毒の症状と対策

頭痛や嘔吐、発熱の症状は典型的な食中毒症状と言えますが、イシナギ中毒で特徴的なのが落屑(らくせつ)の症状。

古い研究の資料を見ると、イシナギの肝臓を食べてビタミンA過剰症を発症した患者には、容姿が変わるほど落屑(らくせつ)、つまり皮膚がかさぶたのようになりボロボロ剥がれ落ちる症状が確認できたとのこと。

「少量なら大丈夫なの?」と思う人もいるかもしれませんが、発症の目安となる量も分かりませんし、食べない方が無難でしょう。老成した個体、つまり長く生きた巨大魚は身の脂も食べないほうが良いとされています

重要なポイントは、加熱による無毒化はできないということ。

寄生虫由来、細菌由来のものは、加熱により毒性を除くことができる場合もありますが、ビタミンA過剰症はダメっぽいので注意。

腹わたを除いた身の部分は食べても問題ありません。刺身で食べても大丈夫です。ただし、繰り返しますが老成個体は身を食べるのにも注意が必要。

イシナギの肝臓にビタミンAが多く含まれるのはナゼ?

肝臓は、イシナギだけでなく他の魚類も持つ臓器。なぜ、イシナギだけ危険視されるのでしょうか?

疑問の答えは軽く調べても分からなかったので、筆者の考察を書いておきます。

その前に、肝臓にさえ気をつければ美味しい食用魚のイシナギについて、どんな魚か軽く触れていきます。

巨大魚なので船釣りでも人気。大きくなる魚はそれなりに長生きする傾向がありますが、寿命は約20年と言われています。

まだ若魚の状態のイシナギの食事(魚市場で買ったイシナギの口から餌がでてきました)。コチの幼魚でしょうか?

形がしっかりと残ったままの小魚が口から出てくることはそんなに珍しいことではありません。

口は大きく、鋭い歯はありませんが、ザラザラとしたヤスリのような細かい歯がありますね。食性は、イカや小魚を食べるとのこと。

イシナギの肝臓にビタミンAが多く含まれるのはなぜでしょうか?

筆者の想像ですが、恐らくイシナギ特有の食性が原因ではないかと考えます。臓器に毒性を持つ魚の特徴として総じて言えることは、老生個体が危険なこと。原因となる餌を食べることで成長とともに臓器に毒素が蓄積されていくのではないでしょうか。

【禁断】イシナギの肝臓の味とは?

イシナギの肝臓を食べることは法的に禁止されています。と、なると・・・。

俄然、「イシナギの肝臓の味って、実際どうなの?」と、ダメと言われると試したくなる冒険野郎がいそうですし、筆者もその口だったりします。

とはいえ食中毒で苦しみたくはないので、イシナギの肝臓を食べた経験は筆者にはありません。

そのため肝臓の味については想像するしかありませんが、ビタミンAが多く含有されるからと言って、他の魚と味に大きな違いがあるとは考えにくいです。だいたい、魚の肝臓の味の方向性というのは似たようなものというのが筆者の経験則。

もちろん、その中で味のグレードが高い/低いとあるのは事実なので、「ウマヅラハギは肝臓こそ美味」と、肝臓を珍重される魚をまずは試して、イシナギの肝臓の味を想像するのが良いと思います。

イシナギの肝臓はビタミンAを危険値レベルで含んでいる可能性ありと散々書いてきましたが、他の魚の肝臓とて、ビタミンAがゼロということはありません。そもそも肝臓という部位をたらふく食べるという行為はどんな魚であろうとオススメしません。

イシナギは美味(肝臓以外)

最後に食用としてのイシナギに注目しておきます。

イシナギは小型より大型の個体が高値で扱われ、身がしっかりして味も良いと思います。でも極端に大型のものは既に書いたとおり注意すべき。そもそも魚市場とかスーパーマーケットなどには、危険サイズのイシナギは出回ることはないのが基本。

30㎝ほどの小ぶりのものは水っぽくて刺身には向かないかなと個人的には思いました。小さいイシナギは焼いて食べた方が美味しかったです。

旬は晩春から夏とされますが、これは漁獲量が多いためで、秋から冬の産卵期の個体もたまに市場で見かけますが、脂が乗っていて非常に美味。ずんぐり体型は歩留まりが良く、食べどころ多めの魚です。

くどいですが、肝臓は食べちゃダメ!

今回調べてみて、ビタミンAを摂取しすぎると危険だということが一番の衝撃でした。身近な栄養素でも過剰に食べ過ぎると毒となり得ることは学びになりました。イシナギは肝臓を除去した上で、刺身や焼き魚、煮魚で美味しくいただきましょう。

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