自分の失敗は認められる?「ヤマブキ」にまつわる昔話

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『源氏物語』の時代から愛される色

「ヤマブキ」と聞くと、植物よりも色を思い浮かべるほうが多いと思います。黄色っぽい、オレンジっぽい・・・山吹色としか言えない色味です。JISの色彩規格では「あざやかな赤みの黄」とされているようです。

和名のついた色は伝統的なイメージがありますが、「山吹色」は平安時代まで遡ります。

高校の古典の時間に、女性の装束には「襲(かさね)」という、季節ごとに色と色の組み合わせがあることを習った記憶がある方もいらっしゃるかも。教科書の後ろの方にあるカラーのページにもあります(授業で暇してると一度は見ているあのページです)。

「襲(かさね)の色目」で山吹色は春に使われる色で、かの有名な『源氏物語』では、光源氏が偶然見つけた美少女を自分の理想の妻に育ててしまう、その美少女「若紫」が登場したシーンで着ていた着物の色が「山吹色」だったりします。(「若紫」は『源氏物語』の中でも重要な登場人物の一人です)

清げなる大人二人ばかり、さては童べぞ出で入り遊ぶ。中に、十ばかりにやあらむと見えて、白き衣、山吹などの、なえたる着て走り来たる女子、あまた見えつる子どもに似るべうもあらず、いみじく生ひ先見えてうつくしげなる容貌(かたち)なり。

マナペディアより

たくさんの子どもが遊んでいるなかに、他の子とは似ても似つかないほど美しい姿かたちの女の子がいる・・・・と言って、この後も若紫を賛美する言葉が続きます。

美しさや品の良さを表す色なのかもしれません。古典の授業っぽくなってしまいましたが、植物のヤマブキについても見ていきましょう。

ヤマブキは「黄色」だけじゃない

植物のヤマブキは、「黄色」と「白色」の二種類があります。白色の場合、「シロヤマブキ」といいます。

一般的なものは一重咲きですが、八重咲きのものもあり、色・花びらとバリエーションがあります。当店にあるのは、一重咲きの「シロヤマブキ」です。レースのような花びらが小さいながらエレンガントな印象。

桜の花が散ったころに、咲きはじめます。低木でギザギザに波うつ葉は小さく、爽やかな植物です。香りは・・・ありません。

余談ですが、山吹色の着物が着たいわ!と思ったら、ヤマブキの咲く時期を選んでしまうのは良くないのだそう。植物で咲いているのが一番に美しいのであり、それを見立てた着物をそこに被せてくるとは野暮ったい・・・ということらしいです。

季節を先取りして、桜の花が咲いているときにヤマブキの柄を選ぶと、「ふふ、もうすぐヤマブキの咲くころね。桜に、ヤマブキにと春を楽しませてもらったわ」とかなんとか褒めてもらえるかもしれません。

「ヤマブキ」にまつわる昔話

さきほどのヤマブキの説明で、一重咲きと八重咲きの花びらがあるという話をしましたが、違いはこれだけでなく、一重咲きのヤマブキは結実しますが、八重咲きのものは雄しべまでが花びらと変化してしまったため、結実しないのです。

この「実をつけない八重咲き」には、昔話が存在します。

昔々、太田道灌(どうかん)という関東地方の武将がいました。道灌が鷹狩りに出かけた際、雨に降られてしまい、蓑を借りるために近くの農家を訪ねたそうです。

すると、家から若い女が出てきて道灌に差し出したのは、「八重咲きのヤマブキ」でした。

どうしたことでしょうか。蓑を借りるわけがヤマブキを差し出され、訳のわからない道灌は怒ってそのまま帰ってしまいました。

納得のいかない道灌は、あの農家の女に宛てて文を出します。「蓑を貸してくれればいいものを、なぜヤマブキなのか」という内容でした。ほどなくして、女から返事がきます。

女からの文には、ある和歌が添えられていました。

  七重八重(ななえやえ)は咲けども山吹の実のひとつだになきぞあやしき

歌意はこんな感じ。「七重や八重にあでやかに花を咲かせるけれども、山吹には実のひとつさえ無いのは不思議なことだなあ」。

この和歌は兼明親王が詠った歌で『後拾遺和歌集』という勅撰和歌集(天皇が作らせた和歌集)にも収録されています。

女からの文には、こう綴られていました。「蓑をお渡ししたくても、その(みの=実の)ひとつさえこの家には無いのです」

ここまで読んだ道灌の気持ちはどうだったのでしょうか。

蓑がないほど貧乏であることを言わせてしまったことへの「謝罪」の気持ちなのか、そんなことはヤマブキの花を渡さずに口で言いなさいという「憤り」の気持ちなのか。みなさんだったら、どうですか?

この話の教訓は・・・『常山紀談』を見よ!

逸話によれば、女からの文を読んで、ヤマブキの花の意味を理解した道灌は、自分の無知を恥じたのでした。

「この兼明天皇の歌を知っていれば、怒らずに済んだのに。女のせめてもの計らいを無下にしてしまった・・・・」

なんて素直な人でしょうか。わたしだったら、雨が降ってきて気が滅入っているのに、そんなシャレを効かせてきて「そんなん知らんわ!」と言ってしまうところでした。

この出来事がきっかけで、道灌は武将として武芸に長けているだけではいけない、学問もしなくては!と勉学に励んだそうです。めでたし、めでたし。

それにしても、貧乏な農家の若い女は、どうしてこの和歌を知っていたのでしょうか。この時代、和歌は教養の一つで貴族の特権だったはずなのに。そんなミステリアスな部分も気になる昔話でした。原文を知りたい方は『常山紀談』を検索してみてください。

シロヤマブキの実がなっています

当店のシロヤマブキは、一重咲きですので、現在実がついています。三つから四つ並んで実がついています。

この記事を書いた人
ペピートスタッフ
みさきち

ペピートスタッフ、みさきち。
最近は『光る君へ』を観ることにはまっています。いつか、源氏物語の現代語訳を自分でつくってみたい!

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